はじめに
現代人の食生活は、便利になり、簡単に調理できて、おいしくものが簡単に手に入るようになりました。
その一方で、肥満や糖尿病、高血圧など多くの成人病が増えています。また、便秘症や慢性下痢症など消化管機能の不調を抱える人が少なくありません。
その原因の一つに現代人の食生活の「食物線維」不足があります。
厚労省は生活習慣病の予防や重症化予防のため、米国・カナダの推奨基準を参考に、理想的な食物線維の摂取量を1日あたり24 g 以上を参考値としていますが、日本人に必要な食物線維の量は明らかされてはいません。
しかし、この値と比べて日本人1日あたりの食物線維摂取量は10〜15g程度であり、ずいぶん少ないのが現状です(「厚生労働省日本人の食事摂取基準(2020 年版)」)。
ここでは、食物線維のはたらきと期待できる健康効果について述べ、食物線維を多く含む食品や、食物線維を効果的にとる方法についてお話します。

食物線維(= 食物繊維)とは
「食物線維」とは、小腸で消化吸収されずに大腸に到達する炭水化物のことで、難消化性炭水化物とも呼ばれることがあります。
これに対して容易に消化吸収される炭水化物(易消化性炭水化物)が、いわゆる「糖質」です。
食物線維は、元来、天然の食品由来のものを指していましたが、何らかの健康効果を示すものであれば、合成された炭水化物なども広く含めることがあります(FDAの定義を参照)。
食物線維は、水に溶けやすい「水溶性食物線維」と、溶けにくい「不溶性食物線維」に分類されます。
水溶性食物線維
水に溶けやすく、ゲル状になって水分を保持します。糖質の吸収を穏やかにしたり、腸内細菌のエサになり腸内環境を整える作用が期待できます。
りんごやいちごでジャムを作った時のどろっとしたイメージ(ペクチンの作用)を思い浮かべればよいと思います。
不溶性食物線維
植物の細胞壁に含まれるセルロースやヘミセルロース、リグニンなど、水に溶けにくく分解されずに大腸内に到達するものです。
便に適度な水分やかたちを与え、お通じを安定させます。
カニやエビの殻に含まれるキチンやキトサンも不溶性食物線維の一種です。

食物線維の健康効果
三大栄養素といえば、「炭水化物」「脂質」「タンパク質」ですね。
これに「ビタミン」と「ミネラル」を足して五大栄養素といわれます。
さらに、これらに加えて「食物線維」が注目されています。「食物線維は第6の栄養素」といわれる所以です。
ここではその健康効果についてお話します。
生活習慣病の予防効果
便秘にいいという話は良く聞きますが、種々の論文データについて解析したシステマティック・レビューとメタ解析があります。
これによると食物線維をたくさん摂ることで、肥満、総コレステロール値、LDLコレステロール値、中性脂肪、収縮期血圧、空腹時血糖などを改善する効果が期待できることが分かっています。
血糖の上昇を穏やかにする
食物線維はゲル化して糖質の消化吸収をおだやかにします。
水溶性食物線維は腸内で短鎖脂肪酸となり、GLP-1というペプチドホルモンの分泌を促します。
GLP-1は血糖を下げるインスリンの働きを助け、血糖の上昇を招くグルカゴンを抑える働きがあります。
また、胃の内容物の排出を遅らせる働きもあるため、さらに血糖上昇をおだやかにするのです。
がん・発症抑制
食物線維が少ない食生活を送る人は、乳がん、大腸がん、胃がんの発症リスクが高くなるという研究結果があります。
食物線維を積極的に摂ることで、がんの発症リスクを低減する効果が期待できるといえます。
ダイエット効果
食物線維を多く摂ると、おなかが空きにくくなり、太りやすいような食行動が押さえられます。
その結果、ダイエットが成功しやすく、体重の減少、2型糖尿病の抑制につながるのですね。
消化管の機能に対する効果
特に水溶性食物線維は、腸内細菌のエサになり、腸内細菌叢を安定化させ腸内環境を整えます。
良く知られる便秘に対する効果は勿論、慢性的な下痢を繰り返すなどの不調の原因が食物線維不足の場合もあります。
結腸憩室症という病気も食物線維不足が一因だといわれています。
これは大腸の壁の外側に粘膜が袋状に飛び出すもので、ここに便が溜まってカタマリ(糞石)になり、炎症を引き起こしたり出血の原因になるもので、手術が必要になることがあります。

では食物線維を上手に摂るにはどういう工夫をすればいいのでしょう?
食物線維を上手に摂るには
主食穀類から摂る
食物線維をたくさん摂るためには、野菜だけから摂取しようとするとかなりの量を食べなければならなりません。
むしろ主食としている穀物の中から食物線維を多く含むものを選択して摂るのが実は効果的です。
特に食物繊維の豊富な大麦(押し麦やもち麦など)を取り入れれば効率良く摂ることができます。
食物線維の少ない白米やパン類、うどん、ラーメンなどのめん類は避けたほうが賢明です。食物線維を手軽に摂るためには下記のような工夫をするとよいでしょう。
白米を避け、麦ご飯や玄米にする
自宅で食べる場合は3割麦ご飯がおすすめです。
炊飯器も麦めしモードがえらべるものもあります。
健康ブームで食物線維の重要性が知れ渡り、コンビニ各社がもち麦入りおにぎりを開発しています。また、外食やお弁当でももち麦ごはんが選べたりすることがあるので、利用しない手はありません。
独身の方には、レンジでチンできるパックご飯にも、麦ご飯や玄米ご飯などがあり便利です。
オートミールは食物線維とタンパク質が豊富
オートミール(えん麦)は、手軽に食べられる食物線維が豊富な食材です。
タンパク質やミネラルも多く、栄養価のバランスが良いのが特徴です。
朝食にはヨーグルトや豆乳と混ぜて、ブルーベリーなどのフルーツと一緒に摂るのがお手軽です。
出し汁やスープと一緒に電子レンジで加熱するのもいいし、小麦粉のかわりにお好み焼きの材料にしてもとてもおいしく食べられます。

めん類を食べる時は食物線維豊富なものを追加
うどんやラーメンなどはおいしくてクセになりますが、めん類の多くは食物線維が少ないため、食べる頻度を減らしましょう。
うどんは消化は良いのですが、その分急激な血糖の上昇を招きやすいのが欠点です。
食べる時は、必ずわかめ・とろろ・なめこ・ごぼうなど食物線維豊富なものをトッピングなどで追加するようにしましょう。
うどんより蕎麦を選ぶ
蕎麦はうどんより食物線維が多く、血糖の上昇も穏やかです。
黒っぽい粒々の混ざった茶色い「薮そば」は、蕎麦の実の外殻に近い外層粉中層粉からつくられ、中心部分からつくられる白っぽい「更科そば」より食物繊維が豊富です。
また、健康効果が期待される「ルチン」という成分も多く含むため、健康効果を考慮すると薮そばの方が無難です。
パンはライ麦パンや全粒粉を用いたパンを選ぶ
パンを食べるなら、小麦粉を使ったパンよりも、食物繊維多いライ麦パンや全粒粉を用いたパンにしましょう。
パンとコーヒーだけなどの食事はやめて、サラダを添えるなど、食物線維を一緒に摂るように工夫しましょう。
サラダに蒸した豆類や茹でたもち麦などをトッピングする
サラダに野菜だけでは食感や味の変化が少なく、飽きてしまうことがあります。
蒸した大豆、ゆでたもち麦、砕いたくるみなどをトッピングするとより効果的に食物線維が補えます。
糸寒天を水で戻してサラダに加えるのもgoodです。
間食にはナッツ類や海藻類を取り入れる
甘いおやつには食物線維が少なく、血糖上昇を招きやすいものが多いため、注意が必要です。
くるみやアーモンドは糖質が少なく食物線維が豊富な食材であり、小腹が空いた時には最適です。
口寂しい時は、歯ごたえがあり、血糖の上がりにくい茎ワカメや都こんぶなども有効です。
寒天など海藻由来のものは水溶性食物線維が豊富です。寒天フルーツなどを作り置きしておけばデザートとしても効果的に食物線維がとれますね。

まとめ
食物線維を効果的に摂る方法についてまとめました。
- 主食穀類から摂る
- 白米を避け、麦ご飯や玄米にする
- オートミールは食物線維とタンパク質が豊富
- めん類を食べる時は食物線維豊富なものを追加
- うどんより蕎麦を選ぶ
- パンはライ麦パンや全粒粉を用いたパンを選ぶ
- サラダに蒸した豆類や茹でたもち麦などをトッピングする
- 間食にはナッツ類や海藻類を取り入れる
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[…] 食物線維の効果的な摂り方については、別の記事も参考にしてください。(「食物線維を上手に摂るには」) […]