はじめに
肝機能異常を契機に腹部超音波検査で脂肪肝と診断される方が増えてきました。
「健康診断で脂肪肝と診断されました。どうしたらいいですか?」
「やせなさい、運動しなさい、といわれて取り組んでいるが効果が得られない」
そのような相談をもらうことも多くなりました。
自分が脂肪肝になった原因について正しく理解していなければ、折角の努力も報われません。
脂肪肝は薬では治せませんが、原因を正しく理解し、正しいアプローチをすれば必ず治すことが出来る病気です。
この記事を読めば、以下のような疑問が解決し、どう行動すべきかが分かります。
脂肪肝に関する素朴な疑問
- Q. 脂肪肝を放置したらいけないのでしょうか?
- Q. 脂肪肝の原因は何ですか?
- Q. 脂肪肝はどうしたら改善するのでしょうか?
- Q. 食事は何に気を付けたらいいのですか?
- Q. 脂肪肝と診断された場合、どう(行動)すればよいのでしょうか?

脂肪肝を放置したらなぜいけないのか?
脂肪肝は、肝臓での代謝に異常をきたし、肝臓の細胞内に中性脂肪が蓄積してしまった状態です。
脂肪肝は、進行しない限り不調などを自覚することがありません。
しかし、放置してはいけません。
特に肝機能の数値の中でも、AST(GOT)、ALT(GPT)の値が高くなっているのなら、それは肝細胞に炎症が生じて壊れている証拠です。
肝臓の炎症が持続し進行すると、肝炎、肝硬変から、肝細胞癌に発展する恐れがあります。
そこまでいかないまでも、放置するとインスリンが効きにくくなります(インスリン抵抗性)。
インスリン抵抗性は、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症を引き起こし、高血圧、心血管疾患、脳卒中、認知症などあらゆる病気の元凶になるからヤバいのです。
つまり、脂肪肝は、肝臓の問題のみならず、いわゆる「メタボリック症候群」など、全身の病、生活習慣病を生じている証拠と考えられるのです。
ですから決して放置してはいけません。

脂肪肝の3大原因と対処の方法
脂肪肝の原因は、ずばり「飲み過ぎ」「食べ過ぎ」、そして「運動不足」です。
中でも飲食の原因で、男性で多いのはアルコールや清涼飲料水、女性に多いのはお菓子類の甘いものです。
食事の内容が、炭水化物に偏っていて(糖質の過剰摂取)、食物線維が少ない食事というのは、男女ともに多いです。
揚げ物や肉を食べるから、脂肪肝になるんでしょうか? とか
脂っこいものを控えればいいのでしょう?
そう考えるのは無理もありませんが、それより肝臓の細胞内での代謝に影響する物質の摂取や、運動不足が関係しているのです。
フォアグラは、ガチョウに強制的にチューブで穀物を多量に給餌しつつ、狭いケージに押し込めて運動できないようにして肝細胞に脂肪が蓄積した異常な肝臓(脂肪肝)です。
脂肪肝は脂肪を減らせば防げるという単純な話ではなのです。
原因がわかれば、対策できます。
ここでは、脂肪肝の主な原因と正しい対処方法について解説します。
1.アルコール

アルコールが脂肪肝を促進する理由はいくつもあります。アルコールは肝細胞内で分解される過程で、脂肪酸の合成を促進します。また、脂肪酸の分解(β酸化)を抑制し、中性脂肪をVLDLという粒子として血液中へ運び出すのを抑制します。
これによって、細胞内に中性脂肪が蓄積して、脂肪肝になります。これが増悪すると肝細胞の機能が次第に障害されていくのです。
また、細胞内の活性酸素が増加して、細胞機能を更に悪化させ、炎症や細胞の死が起こりやすくなります。
アルコールは、習慣性、依存性を生じやすく、脂肪肝から慢性肝炎(アルコール性肝炎)を生じさせます。
これが進行していくと、アルコール性の肝炎から、肝硬変になり、やがては肝細胞癌のリスクが出てきます。
アルコールが原因の脂肪肝ならば、適正量(純アルコール 20g)以下への節酒。既に肝炎や糖尿病を発症しているのなら、絶対にアルコールは止めなければなりません。
実はこれに似た反応が、砂糖・果糖の摂り過ぎでも起こるのです。
2.砂糖・果糖の摂り過ぎ
アルコールを飲まない人でも糖質の過剰な摂取は、肝臓の中でアルコールと同じような問題を起こすことがあります。
特に問題になるのが、果糖です。果糖は、体中で利用されるブドウ糖と異なり肝細胞以外ではほとんど代謝されないのです。
肝臓は果糖の代謝を一手に引き受けているいます。
しかも、やっかいなことに果糖はエネルギーとして使われにくく、アルコールと同様に中性脂肪の合成を促し、脂肪肝の原因になります。
これが、果糖が「酔わないアルコール」と称される理由です。
果汁100%のオレンジジュースやリンゴジュースは、食物線維が失われた果糖たっぷりの飲み物であり、特に脂肪肝を悪化させる要因になりますので、絶対飲んではいけません。

砂糖(ショ糖)は、ブドウ糖と果糖が一分子ずつ結合した二糖類です。
始末に悪いのは、アルコールは普通の社会人ならば、しかるべき場所で一定の時間に一定量しか摂れないのに対して、砂糖は一日中摂り続けてしまう可能性があります。
朝の菓子パンやジャムに、お茶の時間のスイーツ、清涼飲料水、甘い紅茶飲料、缶コーヒー。
ノンオイルのドレッシングや調味酢などの調味料や、料理にも砂糖や果糖を多く含む異性化糖(果糖ぶどう糖液糖など)がたくさん使われています。
食後の別腹のスイーツが加われば、もう処理しきれないよと肝臓は悲鳴を上げます。
しかも、アルコールと同等かそれ以上に依存性があるのです。
ですから、甘いものの摂取が多くて脂肪肝になっている人は、砂糖や果糖が添加された食べ物を断つことが有効です。
このようにアルコールによらない脂肪肝を、非アルコール性脂肪肝 Non-alcoholic fatty liver (NAFL)といいます。
これも進行すると、肝臓に慢性炎症を生じます。これを非アルコール性脂肪肝炎Non-alcoholic steatohepatitis (NASH)といい、前述の通り肝硬変、肝癌に至ります。
3.炭水化物の摂り過ぎ、食物線維の不足
血糖の急激な上昇を招く食品の摂取や、炭水化物に偏った食事は脂肪肝を悪化させます。
血糖が急激に上がると膵臓からインスリンが分泌され、血糖を下げようとします。そのときに、インスリンは肝臓内や筋肉にぶどう糖を取り込んでグリコーゲンとして蓄えます。
また、脂肪肝では、全身のインスリン抵抗性が悪化し、筋肉にもブドウ糖が取り込まれにくくなっており、糖尿病を発症させたり、内臓脂肪がつきやすくなったりします。
その結果、糖からの中性脂肪の合成が高まり脂肪肝が進みます。
インスリン抵抗性が増すと脂肪細胞から放出されるレプチンという食欲を抑えるホルモンの働きがにぶくなり、食欲が抑えられなくなり、食べる行動を起こしやすくなります(レプチン抵抗性)。
そうして、ますます過剰なエネルギーが肝臓になだれ込んで処理困難になり、肝細胞内に中性脂肪が溜まり、さらに脂肪肝が悪化するという悪循環に陥るのです。

これを改善する手だてはあります。白米やパンなど精製された炭水化物による食品を避け、もち麦や押し麦を混ぜて炊いたご飯や玄米など食物線維をしっかり摂るようにするとよいでしょう。
食物線維は、腸の粘膜からのグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の分泌を刺激し、血糖の急激な上昇を穏やかにするとともに、満腹感を得やすく、過食を防ぐ働きがあります。
またうどんやラーメンなどの麺類は、スルスルっと入って血糖を急上昇させやすいので、脂肪肝が悪化する原因になります。極力避けたほうがいいでしょう。
どうしても食べたいときは、野菜、海藻類、きのこ類など食物線維をあらかじめ充分に摂ってから食べるようにしましょう。
市販の手軽に飲める野菜ジュースは、大切な食物線維が失われているため、脂肪肝には百害あって一利なし。まったく、おすすめできません。
面倒でもちゃんと野菜を買って自分で調理して食べる習慣をつけましょう。
4.運動不足

適度な運動は、脂肪肝を改善することが知られています。
運動をして筋肉を付けると、代謝が上がるだけではなく、インスリン抵抗性を改善し、脂肪肝になりにくくなり、しかも内臓脂肪も減らすことが出来ます。
そして胴回りがスリムになり,キツキツになっていたズボンも楽になるでしょう。その結果として、脂肪肝も改善します。
以前メタボ腹の脂肪肝だった私も、ランニングの習慣によってぽっこりお腹が引っ込み、脂肪肝が完治しました。(参照「ランニングで脂肪肝が治った!」)
ランニングまではいかなくても、ウォーキングを継続することでも改善が期待できます。
ウォーキングといっても最初は10〜20分程度から始め、毎週5〜10分ずつ増やして1日40分から60分を目標にしましょう。
そして、少し息が弾むくらいまで早歩きするとより効果があります。辛くなったらゆっくり歩けばいいのです。
そのうち、ゆっくり走ったほうが楽になったりすれば、ジョギングに切り替えるものありです。辛くなったら途中で歩いたりもOKです。
運動がイヤな人やなかなかできないという人は、まず、原因として多い(アルコールや甘い飲み物の)「飲み過ぎ」、砂糖や果糖を含む食物の「食べ過ぎ」に注意しましょう!
食事療法+運動療法ならば、より効果が上がります!
あなたの肝臓が、フォアグラ肝になりつつあるのなら、アルコールだけではなく、甘いものを控え、適度な運動をしましょう!

5.脂質の質の問題
脂肪制限食では脂肪肝は改善しませんが、脂質の種類によっては脂肪肝に影響することが分かっています。
同じカロリーで比較すると、バターやラードなどに含まれる飽和脂肪酸と比較して、ω-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む食事はインスリン感受性を高め、肝細胞内の中性脂肪を減らす働きがあります。
ω-3系多価不飽和脂肪酸は、青魚や亜麻仁油、エゴマ油、クルミなどに多く含まれています。
また、オリーブオイルは、メタボリック症候群を防ぐ効果があると言われる地中海式ダイエットの主役の一つです。
オリーブオイルの主成分は、ω-9系一価不飽和脂肪酸のオレイン酸で、悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロールを減らす働きがあります。
また、適量のω-3系、ω-6系の脂肪酸、ポリフェノールも含まれており、オリーブオイルは脂肪肝を改善する効果があることが知られています。
これらの身体に良いと言われる脂質も、加熱調理すると酸化して傷みやすいため、生の状態で、ドレッシングなどにして摂るのがよいでしょう。
小腹が空いた場合は、飴やチョコレートやクッキーではなく、クルミ、アーモンドなど糖質が少なく良質の脂質を含んだナッツを食べるのも有効です。
ナッツの目安は、かたてに軽く一握り(約30g)が適量です。
肉ではなく青魚を、クッキーではなくナッツを、バターよりもオリーブオイルを。
脂質の質にも注目して食事を変えていきましょう!

結論:脂肪肝と診断されたらどう行動すれば良いか?
- アルコールを控える
- フルーツジュース、清涼飲料水、スポーツドリンクを止める
- 砂糖、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖)の入った食品を避ける
- 甘いお菓子、菓子パン、間食をやめる
- 野菜、海藻類、きのこ類など食物線維を意識して摂る
- 適度な運動をする習慣をつける
- 良質の脂質を適量とる
[…] コールは飲まなくても、万病のもとである脂肪肝の原因になります。(脂肪肝に関しては別の記事〝脂肪肝の原因は○○だった! 脂肪肝はこうすれば必ず治る〟も参考にしてください) […]