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健康と快楽と幸せの関係

健康な人は幸福度が高い

第一生命経済研究所が2012年に発表した 幸福感に関する調査があります[]。

30歳以上89歳以下の日本に住む男女800人を対象に、自分の幸福度を0〜10点の11段階で評価してもらったものです。

調査では、健康度と幸福の状態について、「非常に健康」な人の幸福度の点数は、は男性7.9点(平均6.7点)、女性8.1点(平均7.0点)と、男女ともに健康な人の幸福度は高いことを示しています。

一方、「あまり健康でない」「健康でない・療養中」と回答した人の幸福度は男女ともに平均値を大きく下回りました。

たしかに、いくら経済的に豊かでも、健康を損なっては幸福は遠のいてしまいますね。

では、幸せを感じるのに重要なことは何なのでしょうか?

健康は幸せを感じるのに最も大切な要因である

あなたにとって「幸せを感じるのに重要なこと」は何ですか?

この調査では、幸せを判断する際に重要視した項目を3つまで選択してもらったところ次のような結果になりました。

  • 1位 健康(65.6%)
  • 2位 経済的ゆとり(60.5%)
  • 3位 家族関係(59.6%)
  • 4位 趣味や楽しみ(27.4%)
  • 5位 好きなことをする自由な時間(26.1%)

経済的ゆとりや、家族関係とともに、健康であることが幸福度に大いに影響することが分かります。

そして、これを年齢層別に見ていくと興味深い結果が判明しています。

歳を重ねるほど健康が幸福感に重要

どんな人が幸せなのか —幸福に対する価値観との関連から—』から引用

比較的若い年代ではは体力に自信あり、多少の無理もききます。

ですから、健康を重視する人は半数に満たない程度であり、他の世代と比較して経済的な問題や精神的なゆとりが重要なようです。

45~59歳になると自分の身体の衰えを自覚し、親の病気・介護や死別などのイベントを経験します。

60~74歳には、自分自身や家族の病気や手術などを経験する機会が多くなり、健康のありがたみについて、より強く意識するようになります。

そして、75~89歳になると、8割の人が健康が幸福感にとって重要と考えるとの結果です。同年代に亡くなる人や認知症も増加し、健康でいることの大切さが身にしみて分かる年代なのでしょうね。

厚労省がみずほ情報総研株式会社に委託して全国の男女5,000を対象に行った「健康意識に関する調査」(2014年)でも同様に、年齢とともに健康を重視する傾向が得られています[]。

病気になってわかる健康のありがたさ

健康という感覚は、病気になってのみ得られる。

〝The feeling of health can only be gained by sickness.〟

ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク『人間についての観察』

上述の「健康意識調査」(2014年)で、健康に気をつけていると回答した人に対して、そのきっかけについて問われました。

その結果、「自分が病気をした」(27.2%)と「家族・友人が病気をした」(15.4%)を併せて 約43%となりました。

実際、多くの人が自分や周囲の人が病気になったことが健康に気をつけるきっかけであると答えているのです。

健康は失ってはじめて本当のありがたさが分かるのですね。

つじ丸

タバコとお酒と幸福度

喫煙者は幸福度が低い

上記の幸福度調査の結果、男女ともに、タバコを吸う人は吸わない人より幸福度が低いという結果が出ています。

特に女性では、非喫煙者の幸福度が 7.0点だったのに対して、喫煙者では 5.8点と −1.2ポイント低くなっていました。

喫煙と幸福度との関連性について詳細は明らかになっていません。

喫煙により健康を害して幸福度が落ちているかもしれないし、幸福感の低い人が喫煙という行為にはまりやすいという可能性もあります。

タバコを吸うとストレスが緩和したり、満足感を感じるという喫煙者の感覚とは反対の結果です。

やはり、タバコによる快楽は刹那的であり、長い目で見ると、健康を害したり、幸福度を下げる要因になりやすいようですね。

海外では、喫煙と幸福度についてもっと大規模な研究が行われています。

次に紹介するのはタバコを吸い続けるのが幸せか、吸わないほうが幸せなのかの問題に一定の答えを出した研究結果です。

禁煙できると幸福度は上がる

2010年〜2011年に旧ソ連の9か国の18歳以上の回答者18,000人から、喫煙の状況やニコチン依存に関する情報が集められ、幸福感との関連が解析されました[]。

これらの国々の人々は、男性の喫煙率と喫煙関連死亡率が高いことを特徴とする母集団です。

この研究の結果、タバコを吸わない人とタバコをやめた人は、タバコを吸っている人よりも有意に幸福度が高かったのです。

タバコの弊害というと、がんのほかに、心臓血管障害、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患のほか、歯周囲病を悪化させ歯を失いやすいなど健康や生活の質を落とすリスクが上昇します。

タバコを吸う人は喫煙に関連するこのような種々の病気に罹患しやすいため、幸福度が低下しやすいのでしょう。

一方で、タバコを吸わない人や禁煙に成功した人は、タバコを吸う人より健康に対する意識が高く、普段から食事や運動など健康に留意した生活をしている人が多いのかもしれません。

いずれにしても、喫煙という行動は、理由はどうあれ長い目で見ると幸福感を損ないやすいと考えるべきでしょうね。

タバコを吸っている人は、今からでも禁煙に取り組めば健康的になり、幸福度も上がることが期待できます

とはいえ、依存性の高いタバコをやめるのは大変です。

禁煙に関しては、「禁煙を成功させるための7つのステップ」という記事も参照して下さい。

Photo by Myriams-Fotos from Pixabay

過度な飲酒は幸福度を下げる

少量のアルコールを飲んで家族や仲間と食事するのは楽しいものです。

適量のお酒ならば、身体を害することもありませんし、仲間との円滑なコミュニケーションなど人間関係を深めるきっかけになるなどメリットも少なくないかもしれません。

とはいえ、摂取するアルコール量は増えすぎると身体への影響が大きくなります。

過度な飲酒により、脂肪肝から脂肪肝炎になり、やがては肝硬変、肝癌に至るなど健康を明らかに害する危険が大きすぎるからです。

また、血糖コントロールを悪化させるし、脳の萎縮をきたし認知症リスクも上昇します。

さらに、アルコール依存症に陥るとと、自らの行動をコントロールできなくなり、家族との関係が壊れたり、仕事に差し支えたり、不眠やうつの原因になるなど、日常生活に種々の面で悪影響を及ぼします。

アルコールはあくまでも適量にとどめること。

改めてこれが不幸にならないお酒との付き合い方と心得ておきましょう。

適度なアルコール摂取量については、別の記事「適量のアルコールと簡単な算出方法」も参照して頂ければ幸いです。

つじ丸

「幸せ」と勘違いしやすい「快楽」の正体

「美味しいものを食べることこそ幸せ」は本当か?

だれしも、美味しいものをお腹いっぱい食べ、旨い酒を思う存分に呑むことができるひとときは、「しあわせ」だと感じることがあるでしょう。

しかし、それは本当でしょうか?

現代人は、違法合法を問わず、身近なところに様々な「快楽(Plesure)」があふれています。

覚せい剤、違法ドラッグ、タバコ、お酒、パチンコ、競馬、ゲーム、SNS、睡眠薬、そして美味しいもの。

これらはいずれも一時的な快楽であり、長くは続かないばかりか、依存性を高め、嗜癖(しへき、Addiction)というべき状態に陥る危険をはらんでいます。

嗜癖とは、ある物質の摂取や行動が(身体的・精神的・社会的に)よくないと分かっていても止められない状態のことです。

いずれも必ず身体的または精神的な健康を害し、あるいは社会的問題を生じて幸福度を下げる結果になり得るのです。

美味しいものばかりを求めるうちに、美味しいと感じさせる何かを食べたり飲んだりすることが止められなくなます。

やがては肥満、糖尿病、高血圧、心臓血管疾患などの生活習慣病の一因になり、その結果、幸福度を下げてしまう結果につながっている可能性は否めません。

快楽(Pleasure)と幸せ(Happiness)の違い

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児内分泌学のロバート・ラスティグ教授は、この快楽と幸せの違いについて、著書 “ The HACKING of The AMERICAN MIND” の中で、興味深いことを記しています[4]。

快楽(報酬)」とは、あなたの脳が「これはいい感じだ、もっと欲しい」と言っている感情の状態であり、「幸せ(満足)」とは、「これはいい感じだ、もうこれ以上必要ない」と言っている感情の状態です。

“The HACKING of The AMERICAN MIND”
Robert H. Lustig, MD

彼は著書の中で、私たちは企業の利益のために、「快楽(Pleasure)」と「幸せ(Happiness)」を勘違いさせられていると説きます。

快楽(報酬)」にはドーパミンが関係していて、「もっと欲しい」という欲求になり、やがて嗜癖(依存症)になる。一方、「幸せ(満足)」はセロトニンが関係していて、幸せすぎて嗜癖になることはないといいます。

食べ物に関しては違うと反論したくなる方もいるかと思いますが、「めちゃ美味しい」とか、食べているひとときの「しあわせ」を強く感じているのなら、脳内でドーパミンが出ている(Pleasure)証拠です。

家族団欒で、楽しく語らいながらなごやかに食事をしている状態ならば、特別美味しいものでなくても別の種類の「しあわせ」(Happiness)を感じているはずです。その時、脳内ではセロトニンが放出されているでしょう。

そして、ある食べ物をリピートしたくなっているのなら、既に依存的になっているかもしれません。

身体に良くないと思いながら、ついつい食べてしまっているのならば、それは 嗜癖 と言えます。

美味しいと感じる食べ物がこわいのは、それが身体に悪いと気付かないまま、習慣的に取りすぎてしまうケースです。

例えば、砂糖を多量に含む清涼飲料水の取り過ぎや、甘い菓子類の間食などで糖尿病になるような場合がそれにあたります。

企業側は、たとえ悪意はないとしても、消費者が中毒(リピーター)になるようなマーケティングや味付けで人々を虜にしようとします。

そして、人々は繰り返しモノやサービスを購入するようになり、売り上げアップにつながるのです。

つまり、企業は利益追求のために、より「快楽」を与えるモノやサービスを提供して、消費者はそれを享受することが「幸せ」だと思い込まされている側面があります。

現代の日本社会は、コンビニに代表されるように、美味しいものが、いつでも手軽に手に入ります。しかも、保存性がよく、調理が不要で、安価です。

また、テクノロジーやネット社会の発達により世の中が便利になり、数多くの快適なサービスが受けられるようになりました。

私たちが、これらにより身体的・精神的健康を損ない、結果として幸福感を感じにくいのであれば、単に「快楽」を追求してしまっている結果ではないかと疑ってみる必要があります。

快楽から適切な距離を保つ

快楽を遠ざけることでどれほど君は喜び、自分で自分を讃えることになるかわかるだろう

エピクテトス『提要』(奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業』より)

これは、奴隷として生まれ育ち、後に解放された異色の哲学者エピクテトスの言葉です[5]。

エピクテトスは古代ローマ帝国五賢帝時代初期のストア派の哲学者で、マルクス・アウレリウス、ニーチェ、アラン、夏目漱石など多くの哲学者、文学者に影響を与えています。

快楽におぼれて身を滅ぼすのは、2000年前の古代ローマの時代以前から変わらぬ人間の性(サガ)なのかもしれません。

エピクテトスは、快楽に適度な距離を置き、目先の誘惑に惑わされず、それに打ち克った自覚の方が大切であることを説きます。

快楽はそればかり追い求めていると、かえって将来により大きな苦痛を背負い込んでしまう。だが我々は、それを分かっていながら、つい見て見ぬふりをしてしまう。」(萩野弘之 著『奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業』より

薬物やギャンブルに限らず、食べ物でも快楽を追い求めていると、知らないうちにそれに依存し、健康を害し、幸せを損なう原因になります。

近年ますます増加傾向の肥満や糖尿病などの生活習慣病の多くは、そのような食行動の結果だと断言できます。

快楽から適切な距離を置いて付き合っていく態度が、結果として健康と幸福感を高めるということなのでしょう。

つじ丸

まとめ

  1. 健康は幸福度を高める大きな要因である
  2. 人は年齢とともに、自分の幸福にとってより健康が重要だと考える
  3. 人は病気に接して初めて健康の大切さが分かる
  4. 喫煙者は幸福度が低く、禁煙できると長期的には幸福度はあがる
  5. 過度な飲酒は健康を害し、依存症になると種々の不幸を招く
  6. 「幸福」と「快楽」は全く別のものであることを意識しよう
  7. 幸福のためには種々の快楽から適切な距離を置くことが大切

《参考文献》

1.小谷みどり. 『どんな人が幸せなのか — 幸福に対する価値観との関連から —』.第一生命経済研究所. ライフデザインレポート 2012年7月.

2.厚生労働省. 「平成26年版厚生労働白書 健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~ 第2章 健康をめぐる状況と意識. 」2014年.

3.Stickley A, Koyanagi A, Roberts B, et al. Smoking status, nicotine dependence and happiness in nine countries of the former Soviet Union. Tob Control. 2015; 24(2):190-7.

4.Robert H. Lustig. “The Hacking of the American Mind: The Science Behind the Corporate Takeover of Our Bodies and Brains”. Avery. 2018. ISBN-13 : 978-1101982945

5.萩野弘之、かおり&ゆかり.『奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業』. ダイアモンド社.2019.ISBN-13978-4478101377.

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