害悪を良く知っている医師でも禁煙は難しい
タバコがやめられない人、多いですよね。私も学生時代は喫煙していました。
マイルドセブンを1日1箱20本は吸っていましたね。
医学生は、タバコが多くの病気のリスク因子になっていることを繰り返し学びます。循環器科、呼吸器内科、脳神経外科、産婦人科、血管外科、癌を取り扱う多くの診療科…
なのに医師になっても、タバコを吸う人は少なからずいます。タバコの害悪を良く知っているはずの医師でも禁煙が難しいのです。
ここでは、タバコが止められない理由について考察しました。

禁煙が続かない5つの理由
1.「身体依存」:ニコチン離脱症状
タバコを吸うと、煙の中に含まれるニコチンは血液中に入り、脳ニコチン受容体に結合します。そして脳内で快楽物質が放出され、喫煙者は快感を味わいます。
しかし、しばらくするとニコチンによる受容体への刺激がなくなり、イライラする、落ち着かないなどの症状を引き起こします。そのため、また血中のニコチン濃度を上げるためにタバコを吸いたくなるのです。
自分の意思だけで禁煙が難しいと考えるなら、禁煙外来を受診し、専門家による適切な治療を受けることが、大いに手助けになります。
そもそも、禁煙外来を受診しよう考える方はまだ救いようがあります。
中には禁煙をしようとすら考えない方や全く関心のない方も多くいます。
タバコによるニコチンの離脱症状は、身体的な依存(ニコチン切れによるイライラ、落ち着かない、不安、集中力が落ちるなど)であり、数日から1週間頑張ればだんだん楽になり、消失していきます。
問題は、快楽物質により精神依存が長く続くことです。
2.「精神依存」:ドーパミンと報酬系
覚せい剤や危険ドラッグなどの薬物を使用すると,幻覚が現れたり、興奮したり、 気持ちよくなったり、頭が冴えたような感覚を生じたりすると言われています。
これは脳内のドーパミンなど、脳内の神経伝達物質による効果といわれており、「快楽」を感じる正体なので「快楽物質」と言われることがあります。
快楽物質は伝達した先の受容体を介して神経を興奮させます。刺激を受け取った神経は興奮し過ぎないように保護反応として受容体を減らしてしまいます。ですから、それが切れるとさらに強い刺激を求めて、もっともっとと欲しくなるんです(耐性)。
薬物の量がだんだん増えていくのはそういうことですね。
また、「快楽」を感じることが出来る行為や物質によって活性化される回路は「報酬系」といわれ、気持ちよさが脳の中にしっかり記憶されています。
これにより、一旦止めたと思っても、快楽を与える薬物や行動を繰り返し求めてしまうのです。これが精神依存の正体です。
一方、タバコを吸うと、「気持ちいい」「すっきりする」「ストレスが軽くなる」などの感覚を覚えます。
脳内に神経伝達物質の「ドーパミン」が神経の末端から放出され、依存性を強めるのは、上記の薬物依存と同じです。
動物は進化の過程で、摂食や交尾行動など「報酬系」が刺激される行動を繰り返すことにより生き残っているのですが、人間は、近年タバコや薬物の他にも報酬系を刺激する様々な物質や行動に簡単にアクセスできるようになりました。
ギャンブル依存症、ゲーム中毒、SNS依存症、アルコール中毒、砂糖中毒・・・
これら「○○中毒」「○○依存症」というのは、全部一緒です。
それをヤッているときは、とても幸せのように感じますが、本当は幸福でも何でもありません。
実は単なる「快楽」であり、これによって日常生活や健康に支障を来しているにもかかわらず、止められません。
「不幸」や「病気」につながることがわかっていても、体調が悪くなっている自覚があっても、本人は止められないのです。
止めたいと思っても止められない、禁煙してもまた吸ってしまう、きっぱり止めたはずなのに、またどうしても吸いたくなってしまう。
薬物依存に陥った芸能人が、更生したはずなのに繰り返し逮捕されるというのと一緒。違うのは、違法なのか合法かだけです。
「タバコを吸えるのは幸せ」「一服するのが最高のひと時」「とにかく早く一服したい」
このようなあなたの気持ちや行動は、タバコによって放出された脳内の快楽物質と報酬系に支配されているということを思い浮かべてください。

3.「現在バイアス」:目先の利益を優先してしまう
「タバコは百害あって一利なし」
と、よく言われます。
動脈硬化や慢性閉塞性肺疾患(COLD)の原因になり、肺癌や食道癌・口腔癌を始めとする種々のがんの原因になる。
おまけに、「メビウス」が一箱480円など、最近は高価です。
毎日1箱吸う人なら、ひと月 30日で14,400円になりますから、一年間で172,800円。
経済的な負担を考えても、長期的に考えれば止めたほうがいいに決まっている。でも、
「わかっちゃいるけどやめられない!
これを専門用語で「現在バイアス」といいます。
長期的には止めたほうがよいとわかっていても、目先の利益(タバコによる快楽)を優先してしまう性質のことです。
ある日、「よし禁煙してやる」と決心します。
そして、1週間、2週間と禁煙が続きます。
けれども、いつもの喫煙仲間が「もういいんじゃない?」と誘います。
「まいいっか、一本だけなら」
「ふーっ ・・・」 「うまいなぁ」
そうすると、「やっぱり、やめらんないなぁ」
「タバコぐらいいいじゃないの、無理して禁煙なんかしなくても」
という考えがもたげてきます。
4.「認知的不協和」:自分に都合のいい理由を信じてしまう
タバコの害はテレビでも言われているし、医者からも禁煙を勧められているが、
知り合いがこう言います:
「別にタバコ吸っててみんなが皆がガンになる訳じゃない」
インターネットで調べるとタバコの害悪以外にも
「禁煙すると肺がんが増えるっていう人もいるくらい」
ある統計によると
「タバコをやめても長生きするわけじゃない」らしいぞ
禁煙に否定的なことばを見つけます。
すると、禁煙を肯定的に捉える考えを排除して
「禁煙なんて意味がない」
「タバコを無理して止めてストレスがたまるほうがよっぽど身体に悪いよ」「身体のために禁煙するなんて格好悪い」
という誤った考えに支配されやすいのです。
これでタバコが身体にわるいという事実から目を背けて、こころは穏やかに過ごせるわけですね。
これを「認知的不協和 cognitive dissonance」といいます。
もともと心理学的な言葉で
「人が自分の中で二つの矛盾する認知を同時に抱えた心理的な葛藤」
を指します。
そうすると、もともと自分が正しいと思っている(または正しいと思いたい)考え方が「正しい」と信じるための証拠や理論を集めようと行動します。
そして、その考えに反する証拠や理論は無視するか軽視してしまうのです。
【本】『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいいい』(武田邦彦 著)
こんなトンデモ本でも、テレビ出演などしている有名な大先生が書いているとなると、飛びつきたくなる人がいるわけです。
Amazonでも評価は真っ二つですが、四つ星、五つ星が併せて4割近くもいることがそれを物語っています。
このように、禁煙しなくても心地よい理論を信じてしまうのですね。

5.「現状維持バイアス」:大きな変化を受け入れられない
大きな変化を受け入れず、現状維持を選択してしまう心理作用のことです。
「禁煙する」「適度な運動をする」「ダイエットをする」
誰しもが、試みるけど、継続が難しいものの代表です。
新たなことに挑戦する時、人はだれでも何らかのストレスを感じます。
何かきっかけがあって決心はしても、なかなか長続きしないものです。
それは、現状が「心地よい場所」であるからにほかなりません。
心地よい場所から離れようとすると、脳(大脳基底核)が、元の場所へ引き戻そうとするのです。

では、どうすれば禁煙を成功させることが出来るでしょう。どうすれば家族をタバコの害悪から守れるのでしょう。
別の記事「禁煙を成功させるための7つのステップ」をご参照下さい。