はじめに
昔から「湯水のように使う」というふうに、ふんだんにあるものを粗末に浪費するようなことをたとえて表現します。でもこれは、日本人ならではの感覚のようです。
海外では上水道そのものがなかったり、水道が整備されていても、それをそのままのめるとは限らないですから。
海外旅行に行くと、パンフレットや旅行案内書などに「生水はお腹を壊すから決して飲まないように」「氷入りの飲み物もあぶない」「信頼できるメーカーのペットボトルや缶・びん入りの飲み物を飲むように」などとなっています。
これは水道技術が未発達で、十分なレベルまで浄水できていないためですが、当然のことながら、ペットボトル入りのミネラルウォーターを飲用するしかありません。
日本では、水道法で一般細菌や大腸菌、水銀、鉛等の重金属、有機化合物や塩素消毒によって生成したトリハロメタン、種々の電解質、pH、味や臭い、色など 51の項目についての水質基準が設けられ管理されています。
世界でも、水道水を飲用できる国は十数カ国。ペットボトルの水を飲んだり、沸かして飲むのは当たり前。
そういう意味で日本は水道水をそのまま飲める数少ない国の一つといって良いでしょう。
日本では水道水が直接飲めるのは、あたりまえですが、実はとてもありがたいことなのですね。
しかし、水道水を直接飲める = 安全 なのでしょうか
「水道水をそのまま飲める」は安全か
水道水が飲めるというのは、どこに行っても水質がしっかり管理されており水系経口感染症の心配がないということです。
水系経口感染症というのは、水を介して口から進入して生じる感染症のことで、代表的なものは、コレラ、赤痢、腸チフス、パラチフスです。
日本では、戦後水道水の塩素消毒が義務づけられ、上下水道が整備されるようになって、著しく減少しました。
日本でも上水道普及率が70%を超えた昭和40年代には水系経口感染症の患者数が激減しています。
塩素殺菌が普及するまでは、実は水道が逆にコレラを蔓延させる原因にもなったこともあり、水を浄化して供給することの重要性が認識されたのは1890年代のことです。
この頃の環境では、水道水を疑うのが常識だったし、現代でも多くの国で水道水をそのまま飲むこのは安全ではありません。
ですから多くの国で飲用水としてペットボトルのミネラルウォーターを飲むのは、ある意味当たり前でしょう。
水道が整備されることで、衛生環境がよくなり、伝染病が激減したのが近現代のことで、日本など多くの先進国で水道水が塩素消毒することにより、病原微生物の感染を予防することができました。
ですから、公衆衛生の観点から、水道水の塩素消毒が一定の役割を果たしているのは間違いありません。
水道水はからだに悪い?
一方、その水道水に残存する塩素成分が身体に悪いという説があります。
塩素は水中で次亜塩素酸イオン(OCl-)となり、これが細菌などの微生物の細胞膜構造を変性させて殺菌効果を現します。
その一つは、クロロフォルムなどのトリハロメタン。そして、脂質系に影響を与えて動脈硬化のリスクが上昇するという説です。
日本の水道水に含まれるトリハロメタンは、ごく微量であり、体内に蓄積されることもないことから、一生飲み続けたとしてもおそらく大きな影響のないレベルといえます。
また、動脈硬化巣の脂質から次亜塩素酸による変性脂質が検出されたなどの報告があり、これと関連付けて水素水を危険視する考え方があります。
動脈硬化壁の粥状硬化巣に次亜塩素酸が検出されるのは、マクロファージ内のミエロペルオキシダーゼによる影響と言われており、水道水との関連は不明です。
ただ一つ確実に言えることは、浄水場から過程の蛇口に至る過程で、水道水は水道管から溶け出す錆や鉛、塩素そののもと多量に接触することによる問題です。
水道法による規定される残留塩素濃度レベル
日本の水道水は、塩素の濃度 残存する塩素は、給水栓から吐出される水1リットル当たり0.1mg (0.1ppm) 以上の濃度を保つことが法律で義務づけられています(水道法)。
一方で、おいしく快適に水道を利用するのためには、塩素濃度は1リットル当たり 1 mg 以下が望ましいといわれています。
しかし、塩素濃度の上限は法律上は決まっていません。地域によって大きな差があるのです。
シャワー水の塩素濃度が高いと、髪の毛がギシギシになったり、肌が乾燥したりなど、皮膚との接触による体内への取り込みによる悪影響も指摘されています。
シャワーの後に、髪の毛がまとまりにくいとか皮膚がかさかさになる人は、塩素除去機能のついたシャワーヘッドを試してみることをおすすめします。
ですから、塩素消毒は衛生面での安全を実現する一方で、高すぎる塩素濃度では、塩素そのものによる身体への悪影響が懸念されるのです。

浄水場から各家庭の蛇口に運ばれるまでの問題
浄水場から各家庭の蛇口に運ばれるまでの間に、水道局が管理しているのは口径の大きい給水管や水道メーターまでです。
水道メーターから蛇口までの水道管については各住宅やマンションの管理の問題になります。
各戸の水道管の老朽化による鉄錆や、昔の鉛管による鉛の溶出、マンションの受水槽の管理までは、責任が及ばないのです。
ですから、そこで異物が混入したり、臭いや味を悪化させるような事態が生じる可能性があることは知っている必要があります。
受水槽の合計有効容量が10立方メートルを超えるものは、定期的な清掃、登録検査機関による検査を受けることが法律で義務付けられています(水道法第34条の2)。
10立方メートルを超えない貯水槽ではそのような管理は努力目標であり、罰則もないことは留意しておく必要があります。
そのような心配をしたくなければ、飲用にはミネラルウォーターやウォーターサーバー、浄水器などの使用を、入浴時は塩素除去機能のついたシャワーヘッドのの使用を考えたほうがいいでしょう。
まとめ
- 日本の水道水が安全なのは、水質が管理され、経口感染症の心配がないということ。
- 水道水の水質の維持のために塩素消毒は必須だが、残留塩素の濃度によっては問題がある。
- 水道メーターから蛇口までの間の問題も考慮する必要がある。
- 心配ならば、浄水器やミネラルウォーターの飲用、塩素除去機能付きシャワーヘッドの使用がおすすめ。